経験を通して獲得するもの

Heart to Heart(第8号)平成20712日発行

 今年度は300名を超える子どもたちが療育プログラムを受講しており、センター内はさらに活気が増しています。新年度の学期初めはさまざまな環境の変化があることから、子どもたちにとっては慣れることへのストレスが多い時期です。中にはこうした初めての療育の場に対する不安から大泣きをする子どももいます。それもめそめそではなく、天地がひっくり返ったように派手に泣きわめきます。しかしこうした騒ぎがいつまでも続くということではなく、何回目かの受講になるとあの騒ぎはなんだったのかと思うほどにケロリと落ちつくのが通例です。プログラムのパターンが予測できるようになると、いつも行うことが今度は楽しみになってきます。たとえば部屋から移動する際にはスタッフルームに一声かけていくことになっていますが、先生の報告をまねて「Aルーム、スカラーホールに行ってきます!」「Bルーム、ビオトープに行ってきます!」などと、次から次へとくり返して伝えてきます。楽しそうでもあり得意そうでもあります。

新しい環境や初めて学ぶことに対しては、我々大人であってもそれなりのストレスを感じます。不安ないしは恐怖感が強かったりこだわりや思い込みが激しかったりする発達障害の子どもの場合、新しい場面の一つひとつに強いストレスを感じるのは当然のことで、その不安なりを大きな泣き声で訴えているわけです。その原因を取り除いて本人の気持ちが和むようにするためには、スモールステップの考え方が必要であったり本人の好きなことや本人の出来る作業を与えてあげることが有効だったりします。教育センターでは、好きなキャラクターのグッズを見たり少し散歩をしたり、ときには水を一口飲むことでカラリと気分が一新して、グループの活動に加われたりすることがあります。

いずれにしても彼らの経験する日常生活は圧倒的に不安が多いわけですが、本人が自分のとらわれる一つの壁を乗りこえることは、その後の成長の大きな推進力になります。したがって、家庭でも教育の場でも本人がストレスを感じる場面は常に避けるとか嫌がったらすぐ止めさせてしまうという姿勢に終始すると、子どもはいつまでたってもその学びの場をクリアーできません。さまざまな働きかけによってこれまでのこだわりが取れたり、それまで我慢できなかったことがスッと受け入れられるようになった時、子どもたちはホッとしたような何か成し遂げたような表情をしています。これはあくまでも、経験を通して本人自身が獲得した学びであり、成長の節目となるものです。親御さんにとっては、わが子が苦労している姿に接することは辛いものです。しかし、多くの子どもたちが、このような経験をいくつも重ね、より広い自分の世界を作り出してきている事実があります。その先の成長を見すえて関わってくれている存在があるならば、本人が立ち向かっている姿をじっと見守ることも必要でしょう。短絡的に過ぎることなく多少ゆとりのある心をもって、本人の頑張りを応援したいものです。

自閉症児ら発達障害の子どもたちが頼りにする人というのは、どっしりと揺るがない信念に満ちた親であり教師です。

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