子どもの心理を活かして

Heart to Heart(第3号)平成19129日発行

今年度も残りあと少しです。保護者の皆様に対する年度のまとめとして行う個人懇談では、後期の目標に対する達成の状態を担当スタッフが所見として記入し、保護者の皆様にお渡しした上で、お子様の成長したところや今後の課題点などをお話しします。一年間を振り返り、少し距離を置いて子どもを見つめることは、本人の発達を多角的に認識するために欠かせないことです。

ある時点の子どもを輪切りにして見るだけならば、「あの子が一番よく出来て、その次は誰々ちゃん、うちの子は後ろから2番目」などという、この子どもたちの成長には無縁な大人社会の比較の目をついつい持ってしまいがちです。しかし、もともと異なった成長の歴史をもっている子どもたちが同じグループとして集まっているだけで、決して比較できるものでないことはお分かりのことと思います。そういう保護者の皆様の心情を理解しながらも、折々に我が子を半年1年というスパンで見つめる習慣をつけることをお勧めしたいと思います。歌の時間に歌詞を覚えて歌えた子もすばらしいが、マイクを通して「アアー」と初めて声を出せた子に感激させられるのは、時間をかけたその子の成長の貴さを我々が感じとっているからに他なりません。

 ところで、障害のない幼児の生育過程において、争い競うということとは少し違いますが、他の子から刺激を受けて同じことを真似てみたり、同じようにほめられたいと励んで競ったりというような本能的欲求が見られるようになることはよく知られるところです。積み木を重ねて何かを作っている子どもに『○○ちゃんすごいね!』と声をかける先生のことばは、他の子どもを刺激します。このほめことばが励みになって、自分も先生にほめられたいという気持ちがふくらみ、競争意識のような意欲をともなうことで教育効果を生み出すわけです。当学園の先生方は自閉症の子どもたちにもこうした心理が強く働いていることをよく知っていて、障害のない子と同じようにこうした働きかけをしています。互いの子どもの心を刺激していくと、個が活性化するとともにグループの結びつきが強くなってきます。感情が表れにくい自閉症の子どもたちではあっても、間違いなくこうした意識をもっています。初めのうちは他の子に全く反応しないような子どもでも、内心とてもほめられたいとか先生に対する他の子へのやきもちの感情をもっていたりするものです。お家の中では兄弟関係の中でこうしたことが見られるはずです。自尊感情を含めて、どうぞこのような子どもの心理を汲み取りながら生活の中に活かしてあげてください。

 この一年間、多くの子どもたちが教育センターを自分たちの場所として活動する中で、本人なりの自己表現をしてきました。彼らには我々に気づかないこのセンターへの想いがあるはずです。自分の教室で先生やグループの仲間と過ごした記憶が、鮮明な残像をともなって心に残っていることと思います。次年度はまたグループや活動内容が変わるわけですが、新たな環境のもとで子どもたちの活動領域を広げ、内在する心身の能力をさらに引き出していきたいと思います。

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