得意を伸ばす教育

発達障害とは

発達障害のある子どもたちは、特定の分野で優れた能力を発揮することがある一方、別の分野では極端に苦手なことがあるといった特徴を持っています。

得意なこと・不得意なことは誰にでもあるものですが、発達障害の人はその差が大きく生活に支障が出たり、周囲から誤解を受けたりします。また、発達障害の子どもたちの中には、興味関心が限定的であったり、特定の感覚が過敏であったりなどの症状を示す子が多くいます。このような発達障害の特徴は脳の神経回路に何らかの異常があることが原因と考えられています。本人の性向とか家庭教育が原因の問題ではありません。

発達障害は自閉症スペクトラム、アスペルガー症候群、学習障害(LD)、注意欠陥多動性障害(ADHD)などに分類され、それらが重なり合っている場合もあります。いずれの場合においても、それぞれの特徴を周囲がよく理解し、苦手な部分に配慮しつつ、得意を伸ばすといった適切な療育を行っていくことで成長・発達を促していくことができます。

療育の大切さ

発達障害の子どもたち全般に言えることは、彼らが抱えるさまざまな困難は、その特徴を受け止められる環境下で個々に適した教育を行えばそれを軽減させることが可能であり、この教育的アプローチを『療育』といいます。

武蔵野東教育センターの療育プログラムではそれぞれの子どもの得意/不得意を見極めて、課題の設定を行っています。得意なところを見つけてどんどん伸ばす、苦手なところは時間をかけてじっくりと伸ばしていきます。そのため、子どもは達成感を感じやすく、自信を持って意欲的に課題に取り組むことができます。

療育はできるだけ早期(子どもが幼いうち)に始めることが望ましいとされています。幼いうちからトレーニングを積むことにより、十分な時間をかけて、さまざまな知識や技能を身につけていくためです。

得意を伸ばす

発達障害、特にアスペルガー症候群をもつ子どもたちは優れた能力を持っている一方で、他者とのコミュニケーションの問題や感覚過敏からくる問題を抱えている結果、周囲から偏見の目で見られ、自信を失ってしまうこともあります。

このような子ども達には、本人の得意なことを見つけてそれをよい方向に伸ばしてあげるという視点が非常に重要です。

得意なことが見つからないという場合は、好きなことから興味や関心を広げていくのがよいでしょう。例えば、ゲームが好きな子にコンピューターの扱い方やプログラミングを学ばせる、電車が好きな子には駅名に使われている漢字の読み書きを教えるなどです。この分野だけは誰にも負けないという自信を持たせてあげることが大切です。

自信がついてくれば、自分の苦手なことと向き合い、改善していこうという強さも持てるようになってくるでしょう。

アスペルガー症候群の子どもたち

発達障害の中にアスペルガー症候群と呼ばれる一群があります。知的能力や言葉の発達に遅れがなく、中には平均よりも高い知能を有する場合もあります。しかし、一般的な自閉症と共通する特徴も見られます。具体的には以下のようなものです。

①社会的コミュニケーションの困難さ

言葉の発達に明確な遅れはなく、語彙は年齢相応か、あるいはそれ以上という子どももいます。しかし、他者との会話において、言葉の使い方が相手に違和感を持たせることが少なくありません。年齢不相応の大人びた言い回しが目立ちます。これは、相手の立場や周囲の状況を読み取って、場に即した適切な言葉を選択することが難しいこと、そして知識として蓄えている言葉の数と、コミュニケーションの手段として実際に使える言葉の数にギャップがあることからくるものです。話し方に抑揚がなく、相手の言葉をオウム返ししたり、同じことを繰り返し主張したりする子もいます。 また、言葉を字義通りに受け取ってしまう傾向もあります。つまり、嫌味や比喩の理解が難しいということであり、例えば、散らかっている部屋を見た母が皮肉交じりに「あなたは本当に片づけが上手ね」と言ったら、本当に褒められたと思ってしまうなどです。

②想像力の欠如

「~すると、あいてはどう思うか」「~すると、どうなるか」などと想像を巡らし、それに対応して行動することが苦手です。急に予定が変更になると混乱する傾向が見られます。これは変更によって、普段と異なる流れで活動しなくてはならない状態に直面したとき、その変更の影響を想像して対応することが難しく、強い不安を感じるためと考えられます。

「ごっこ遊び」をしないことがあります。例えば、「ままごと」はおもちゃの台所用品を、実際のものと見立てて遊ぶもの、「電車ごっこ」はロープを結んで数人でその中に輪の中に入り電車に見立てて遊ぶものです。つまり「ごっこ遊び」とはあるものを別のものに見立てる、すなわち想像力を発揮することですが、この「ごっこ遊び」をしないという特徴も見られます。

③こだわり

『初めて訪れる場所では、すべての部屋のドアを開けて、部屋の中を確認しようとする』『バスに乗ったら毎回同じ席に座れないと癇癪を起こす』『冬でも半袖を着たがる(長袖を着ない)』など、いったん自分が決めた行動パターンに強くこだわり、それをかたくなに守ろうとする傾向が見られます。これらの多くは「変化」に対する強い不安から身を守るための、彼らなりの防御手段であることが多いようです。

住み慣れた自分の部屋であっても、部屋の中の状態をいつもすべて確認しようとします。これも変化に対する不安からくるものでしょう。冬でも半袖しか着ない子がいます。これは長袖を着るとどうなるかを想像できないため、長袖に替えることに不安を抱くなどの理由があるかもしれません。このようなこだわり行動は幼児期に多く見られ、成長とともに減少していく(あるいは目立たなくなっていく)傾向があります。知的能力や認知力の向上、そして変化が何をもたらすかの学習の蓄積により、変化に対する不安を感じにくくなり、周囲に受け入れられやすい適切な対応策を経験により学び取るためでしょう。

こだわりは不安からくるもの以外に、彼らの特徴の一つである過集中が原因であることもあります。例えば一日中わき目もふらずゲームに没頭するなどです。しかしこの強い集中力が、勉強やスポーツ、研究などに向かえば、特定の分野で大きな成果をもたらすなど、才能に結びつくこともあります。ちなみに科学技術分野で卓越した業績を挙げる人々の中に、アスペルガー症候群の傾向を持つ人々が多いとも言われます。

④感覚過敏

五感(視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚)のうち、ある特定の感覚が過敏である例が多くみられます。例えば視覚過敏の場合は、見たものをまるで写真に撮ったかのように覚えることができる視覚記憶力を持つ子がいます。ところが彼らは一方でカメラのフラッシュなど強い光をとても怖がります。聴覚過敏の場合は、生まれつき絶対音感を持つ子がいる一方で、雑踏の喧騒や赤ちゃんの泣き声など特定の音を嫌がって耳をふさいでしまうことがあります。触覚過敏の場合は手指の感覚が鋭く器用な面を持ちながら、洋服の素材からくる微妙な感触差を感じ取り、着ることができる洋服が限られてしまうことがあります。味覚が過敏だと微妙な味の違いを感じ取りますが、それが過度の偏食に繋がることがあります。このように感覚過敏は、他の人が持ち得ない特異な能力となる一方で、それによって安定した生活を妨げられてしまうという二面性があることが特徴です。しかし、感覚過敏が持つ負の側面は、こだわりと同じく、成長とともに和らいでいく(あるいは自分にとって不快な刺激を、意識して避ける知恵を学ぶ)傾向があるようです。

アスペルガー症候群の子どもたちは知的な遅れが見られないため、上記4つの特性からくる特異なふるまいから、わがままな子であるという偏見を周囲から持たれることがあります。それが友達関係を悪化させたり、自尊感情を低下させたりして、周囲から孤立してしまうことがよく見られます。成長につれて症状が和らいでいくとしても、早期に療育を受けて、得意を伸ばしつつ対人関係や社会生活で必要なスキルを身につけ、二次障害につながらないよう導いていくことが大切です。

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