今回は、宮沢 薫(小学校・図工科教諭)からのコメントを掲載させて頂きます。
また、2月14日に行われました『北原記念館完成をお祝いする会』にて、全校児童にスライドと共に紹介した壁面アートの話も抜粋して掲載させて頂きます。
『制作した時間より、これからの時間の方が長い』
2004年4月、寺田理事長先生の発案から始まった「壁面アート」は2006年2月の終わりにタイトルプレート「大空へ のびるのびる 東っ子」が設置され、約2年の年月をかけてついに完成となりました。
この壁面アートの制作にあたっては、制作が進めば進むほど事の重大さを実感し、やればやるほど越えなければならないハードルが出てくる状態でした。確実に進んではいるものの引き返すことも度々。その歩みがなかなかかたちに表れない時期もあり、その試行錯誤の毎日に「ものづくり」の大変さを痛感しました。
建築と一体化した美術制作であり、8メートル四方という(国内外にもほとんど事例がない)壁面の大きさ、今までに扱ったことのない(専門分野以外のものである)タイルという素材の使用、共同作業という形態で進めていく事など、今までに何一つ体験したことがなく、何もかもが初めてで、全てがスタート地点でした。
制作した時間よりもこれからの方が長いわけです。
苦労話は壁面からは語ってくれませんし、見る人にいちいち説明できるわけでもありません。作品が完成した時点で作者の手からも離れます。何より、目に見える本物の作品が全てであり、全てを語るわけです。もっともっと良いものができればいいなぁと思い続け、また考え続けましたが、作品が全てであるのと同じように、私自身も現在の自分が全てなのです。自分のちから以上でも以下でもないのなら、できる限りの事はやってみようとの思いで挑みました。…でき上がった作品を見て、子どもたちが何かを感じてくれればいいなぁと願いつつ。
そして、皆が思う以上のものができたというのは、共同作業でのスタートから色々な分野に作品が受け継がれながらも、その時その時に携わってくださった方々が我々の思いを引き継ぎ、最善の努力を惜しむことなく発揮してくださったおかげだと思っております。
『試行錯誤の毎日を振り返って』
レリーフ原案が完成するまで、図面に関してもタイルのデザインに関しても何から何まで全て一つずつ決めていきました。
一つの案を出し、それに幾つかの案を積み重ねていき、そして設計者の炭田さんのアドバイスを取り入れつつ、問題点を解決し・・・といったように、お互いが全面的に納得しない限り次のステップへは進めない状況でありました。
こんなやりとりが毎日続いた一年半だったように思います。
共同制作(ワークショップ)というかたちで進めていきましたが、後藤先生の絵画、延原先生の陶芸、宮沢の彫刻、炭田さんの建築、清水さんのアートプランナーという5人のメンバーが自分の専門分野を生かしつつ、いかにそれ以上の力を発揮することができるかというこの進め方は、個人で彫刻を制作してきた私にとっては体験したことがなく難しさを感じる事もありましたが、皆の力が集結すると凄いパワーになるということも実感したワークショップでした。
《 ものをつくること 》
「木のかたち」
『(2月14日の抜粋より・・・)「子どもたちののびていく姿」の実現に向けて、木のラフスケッチを再び描き直すことになりました。・・・季節は2年前の夏休みです。工作用紙でかたちを切ったり貼ったり、直したりという宮沢先生の夏休みの宿題が毎日続きました。実際に手を動かしてみると様々な課題が浮かび上がってきました。』
夏休み明けにはレリーフタイルの厚みも考慮した立体基本モデルが完成しました。後はタイルにマチエールをつけたらなんとかなるだろう・・・と考えていたのも束の間、小さな作品であればなんとかなるのかもしれませんが、2300枚のタイルを使う縦横8メートル四方の大きな壁面はそれだけでは許してくれないと気づくのに時間はかかりませんでした。壁面に木のかたちやシルエットを描いて凹凸をつけたとしても、それはあくまで木の“かたち”だけでしかなく、木の生命感も木の息吹も何も感じられないのです。スタートしてから5ヶ月目、もう一度最初からやり直し?という状況に追い込まれました。
『(2月14日の抜粋より・・・)立体基本モデルを作製し、色も塗り、感じがつかめたのですが、なんだかそれだけでは「のっぺり」していて物足りないなぁということになりました。何かが足りない!何が必要なのか?どうしたらもっと印象深い木になるのか?ということでまた話し合いが続きます。が、なかなか良い答えが出ず難航しました。』
そしてその答えを出すのに一ヶ月以上を要しました。
「風」
『(2月14日の抜粋より・・・)先生はその答えを見つける為に、図工の授業が終わった後や、お休みの日、時間があればいつでも考えていました。あるとき「風」という考えにたどり着きました。風は目に見えず、色もかたちも無いけれど、風がかたちに変わる瞬間がある。・・・そうだ、葉の動きによってこの動かない壁面の木に動きを与えようと・・・。』
校庭を吹き抜ける風、たおやかな風、そよぐ風、嵐のような風、四季の風、心地良い緑の風、穏やかな風、風の匂い、春の匂いを運ぶ風、風が起こる・・・暗中模索の時期でしたが、その頃は同時に色々なものを吸収できたように思います。・・・風は地球の鼓動。風は天の息吹、風は宇宙全体の力、風は何かを動かす力がある。芸術家たちの言葉や自身の言葉でスケッチブックは埋め尽くされていきました。
「風」というアイディアは大きな壁を乗り越えた瞬間であり、新たな一歩を踏み出すきっかけとなりました。
「連続模様」
さてそうなると、次はタイル一枚一枚のかたちです。またスケッチが始まりました。何十枚ものスケッチを描いていく中で、ある時ふと描いた一枚の葉から、同じパターンのタイルなのに並べて貼るとタイルからタイルへ連続する模様になる図案があることを発見しました。この発見は本当にうれしい瞬間でした。一つのきっかけから突破口が見い出され、色々なタイルのかたちへと発展していきました。
「マケット」
図面や図案は平面ですが、レリーフタイルは厚みもある立体です。それならば立体的につくろうと紙粘土でマケットをつくり始めました。そのマケットの数はいつのまにか100種類程になっていましたが、これをつくることにより、よりかたちが明確になりました。
「絵を描いたり、マケットをつくっていて最近思うことは、・・・例えば草原の感じをタイルで出したいと思ったとき、草のかたちをタイルで表しても良いのだけれど、それが何かもっと違うかたちの方が草や草原のイメージをアップさせることがあるということです。それを見つけるのに苦労しているような気がします。(メモより)」
この100種類程のマケットをつくることによって、タイルの色々な可能性を発見することができました。学校でも家でも図面とにらめっこをしていた状況からやっと開放され、立体づくりの楽しさを味わえた期間です。
壁面の制作にあたり毎日が試行錯誤の連続でしたが、越えなければ前に進むことができない程の大きな壁もありました。毎回毎回のハードルを乗り越える為に新しい発想を求めつつ、美術の世界には最後があるのかないのかと・・・ものをつくることへの奥深さを痛感する毎日でした。
この壁を乗り越えて、いよいよこの後は色々な分野の方々の手へと引き継がれていきました。
「目に見えない部分にも・・・」
『(2月14日の抜粋より・・・)寺田理事長先生の思いから始まり、美術の先生たちの思い、そして努力、それを助けてくださった多くの方々の協力のもとで、やっとやっと完成した“東の木”です。是非、目に見える部分だけではなく、この東の木への思いも大切にしつつ、この思いを君たちの後輩にも伝えていってほしいなぁと思います。
ところで、先生はそれぞれのタイルのかたちに木のストーリーやメッセージを込めてつくりました。が、あえてそれは言いません。一枚一枚のタイルを近くで見て、また遠くで見て、是非自分なりの思いを巡らせてくれるとうれしいです。
また、この東の木が春、夏、秋、冬とどのように表情を変えるのか、楽しみに見守りたいと思います。』
この2年間は図工室の中だけでは味わえない色々な体験をさせて頂きました。自身の美術の勉強にもつながり、また「ものをつくること」の意味を改めて考えさせてくれたよい機会となりました。
色々な分野の方々との仕事は一言では言い尽くせないほど、学ぶべきことが多くありました。とても大変な制作ではありましたが、それぞれに素晴らしい輝きをもった方々との仕事は大きな力となりました。その全ての人々のエネルギーが集結し壁面アートを完成させることができ、喜びと感謝の気持ちでいっぱいです。
この様な機会を与えてくださった方々に、またご声援を頂いた沢山の子どもたちと保護者の皆様、先生方に、壁面アートができ上がるのを心待ちに応援してくださった皆様に、そして壁面アートに携わってくださったすべての皆様に、心から感謝申し上げます。ありがとうございました。