校長の独り言【590】 



 混合教育(インクルーシブ教育)30年間の教育実践記録の発刊にあたり

                                 学校法人武蔵野東学園
                                 武蔵野東高等専修学校
                                 校 長 清 水 信 一
 
 平成28年度、本校は創立30周年を迎えることができました。これも多くの皆様のご理解とご協力があってのことと深く感謝申し上げます。また、私にとっては、この上ない喜びでいっぱいであります。

 高等専修学校の設立の使命は、発達障害のある子どもたちが、社会に出るための、学園最後の教育の場として、更には、健常児の優しい友愛の心を最大限に育む、混合教育の実践の場として、正に学園内外の願いと期待で設立されました。

 この30年で、本校は、1,946人の卒業生を上級学校、実社会に送り出しました。
生徒と我々教員とで歩んできた30年を振り返ると、生徒の成長、そして、卒業後の生徒の幸せを願い、無我夢中の30年であったように思えてなりません。
しかし、この30年、社会、教育は大きく様変わりし、子どもたちの多様化も大きな課題となってきました。本校の教育も、その時代のニーズに合わせ、時代に合った変化をしてきました。

 このような状況下で、今年の5月20日に、私が参加させていただいた教育再生実行会議の第九次提言が発表されました。
 二か所に、高等専修学校の学種名が初めて記載されました。今までは、後期中等教育機関を表す時には、「高等学校等」という表記がほとんどでしたが、今回は、「高等学校、高等専修学校」と、省略されずに並列表記となっています。
更に、5月25日に発達障害者支援法が改正されましたが、その条項の中においても次のように表記されました。
(教育) 第8条
高等学校、中等教育学校及び特別支援学校並びに専修学校の高等課程に在学する者も含む。

 一般的に、後期中等教育機関では、どうしても、高等学校との格差等でなかなか社会的認知を得られなかった高等専修学校が、このように評価されるようになったのは、全国の高等専修学校と共に、本校の先生方が日々の教育に全身全霊をかけてきた証であり、本校の30年の先進的取り組みに対しての評価であると思っています。
 
 今後は30年の歴史の上に、最終的な本学園の夢である、ユートピアの実現を目指してまいります。ユートピアとは、障害のある人とその家族が生涯を共に暮らし、働く場も確保され、更には、一般の方も自由に出入りでき、障害のある人もない人も、絶えず共存することの出来るコミュニティーであると考えております。

 そして、『私の一番の願い』のような社会が形成されることを願っています。

「町」や電車・バスの中で、障害のある人が突然大きな声を発したり、強いこだわりを示している場面に遭遇した時に、今の私であれば驚くこともなく、その人を理解することができます。

 しかし、子どもの頃の私を振り返ってみると、一歩後ずさりし、奇異の視線を送っていたことを思い出します。私の幼児期から始まった学校教育の場に、いかに障害のある人を理解する教育設定がなされていなかったかを痛感させられます。

 確かに、現在の学校教育の場において障害のある人を理解する環境は、私の幼児期と比較すれば幾分増えている感はありますが、決して十分とは言えません。

 また、武蔵野東学園の教員ということで障害のある生徒を引率して色々な所へ行く機会があります。海外に修学旅行に行った時に、ある生徒が問題行動を起こしたことがありました。その時に、日本人とアメリカ人の捉え方の違いを強く感じたことがあります。日本人であれば、決して全ての人ではありませんが、私の子どもの頃と同じように奇異の目で見ている人が多いように思えます。逆にアメリカ人には、奇異の視線を送る人はほとんどいなかったように感じました。これは、ただ単に国民性の違いだけではないと思います。  
 
「町」の中には、健康な人、障害のある人、背の高い人、小柄な人等様々な個性を持つ人が共存しています。だから、様々な個性を持つ人が互いに互いを理解し合うことが、みんなが安心して暮らせる「まち」にするために最も必要なことなのです。
 
 学校教育の中で『障害のある人の理解教育』を根付かせることが、みんなが安心して暮らせる「まち」に近づける最良の方法と考えます。
 
 この理解教育がたくさんの「町」の学校で実施されることにより、ある程度の時間は必要となりますが、幼児期からの積み上げ教育の成果がその国民性に必ずや変化をもたらし、みんなが安心して暮らせる「まち」となることを信じ、願っています。

校長  情報ID 73692 番  掲載日時 02/18/2017 Sat, 09:06