校長の独り言【65】 



混合教育と不登校 その3
四.不登校生が自閉児から受ける影響について
健常児が自閉児から受ける影響の中で、特に不登校生が自閉児から受ける影響について述べたいと思います。
本校に入学する健常児の大半は、何らかの心理的な問題を抱えて入学してきます。中学校時代、一度も学校に行っていなかった生徒、些細なことで学校に足が向かなくなった生徒、情緒的に成熟しておらず周囲に同調出来ず引っ込み思案だった生徒、言葉や肉体的によるいじめを受けてきた生徒、集団の中で共に生活が出来ずに昼夜逆転した生活を送っていた生徒等、様々です。世間では、全て不登校生というレッテルを貼られて本校に入学してきます。そんな中、今まで自分を認めて貰えなかった健常児(不登校生)が、自閉児の姿を通じ、自分は弱い存在であったという概念を捨てはじめます。自分より社会的な不利を受けやすい自閉児と出会い、彼らと生活をともにする中で、自分自身のエンパワメントに気づき始めるのです。また、中学時代に友人と交流を形成することが出来ず、時には相手にされることのなかった生徒が、自閉児の分け隔てのない対応に当初は戸惑いますが、友人との関わりの楽しさ、大切さ、さらには困難さも感じるようになってきます。そして、その困難さの中から対人関係を形成するスキルを身につけ、自分自身の振るまいが他者に及ぼす影響なども考え始めるようになっていきます。
毎年、本校職員が、入学してきた生徒の学校を訪問し、入学後の様子を話すと大半から驚きの答えが返ってきます。それは、中学校時代にほとんど学校に行っていなかった生徒が、本校に入学し、自閉児の毎日の姿、真面目な姿勢の影響を受け、「一日も休まず皆勤をしている」、「学習の遅れを取り戻そうと必死に頑張っている」等の様子を伝えると、信じられないという答えが返ってきます。これは、繊細でかつ時には過敏とさえいえる自閉児と出会い、その自閉児が社会的な不利を受けながらも努力している様子を体感する中で、自分自身の能力に気づき、自分自身を振り返りながら行動の調節が可能となり、時にはボランティア活動への参加や福祉への夢など将来のビジョンが描けるようになった証といえます。
※卒業文集より一五期生女子の作文
 私は、三年間お世話になった武蔵野東技能高等専修学校を卒業します。この三年間でいろいろな思い出ができました。
 一年生の頃は、友だちもなく笑顔もありませんでした。でも、C組の友だち(※障害のある生徒)と出会えたことで本当の自分に出会えた気がしました。最初は自分の殻に閉じこもって逃げてばかりだった自分がC組の友だちと出会って、笑顔が出たり、名前を覚えてもらったり一緒にいて楽しいことばかりでした。
 でも、その裏では嫌なこともあり「学校を辞めたい」と思うようになりました。精神的苦痛が残ったこともありました。二年生の頃は進路に悩んで学校を休んでしまったことがあり、また自分の殻に閉じこもってしまいました。一年生、二年生の頃は「自分は弱い人間なんだ」と思うことがありましたが、C組の友だちが私を頼りにしてくれたことに私は涙がこぼれそうになる程、嬉しくなるときがたくさんありました。私は弱い人間だけれども人に頼りにされていることは卒業しても忘れないでいようと思います。これから先は、介護の勉強をして、実技もいっぱい学んで、介護実習に行った時に高齢者の方々に喜んでもらえるようにしたいと思っています。それから、他の人の笑顔を見ると私自身に自信がつきます。この先、どんなどん底が待ち受けようともそこから逃げ出すようなことがないように、前向きに頑張りたいと思います。

最後に
この混合教育の中で、不登校であった生徒たちは確実に自分の居場所を見つけ、自分が必要とされる人間であることを強く実感していきます。さらに、職業教育の中での数多くの検定取得は彼らに大きな自信を与えています。
そして、混合教育の影響でしょうか。卒業後の進路状況では、福祉関係の仕事に従事している卒業生が多いことが本校の特色であると思っています。
 

校長  情報ID 16273 番  掲載日時 12/01/2006 Fri, 09:13