校長の独り言【62】 



混合教育と不登校 その1
学校法人武蔵野東学園
 東京都武蔵野市にある学校法人武蔵野東学園は。一九六四年(昭和三九年)に小さな幼稚園の設置からはじまりました。現在、幼稚園二園、小学校、中学校、高等専修学校、米国マサチューセッツ州ボストンにあるボストン東スクールの六つの学校から成り、日本だけで平成一八年度は幼稚園の年少児三才から高等専修学校三年生一八才まで一,七二八人(内四四八名が自閉児等)が学ぶ学園です。また、本学園の最大の特色は、健常児たちと障害のある子どもたちとが共に学ぶ『混合教育』を実践する学園であります。この学園にあって高等専修学校は、一九八六年(昭和六一年)に武蔵野東中学校の第一期生の卒業年度に合わせ、自閉児の社会自立のための最終教育現場として、広く公立中学校から健康な生徒の入学を許可し、混合教育という人間教育にとっての最高のステージと高等専修学校(※学校教育法第八二条の二に規定される中卒者対象の専修学校をいう)の目的である職業教育を展開する学校として誕生しました。
 本校で学ぶ生徒は現在二三八名、その内一一六名が主に武蔵野東中学校から入学した自閉児です。その他一二二名が公立中学校からの健康な生徒でありますが、そのほとんどが中学校時代に不登校、いじめられっ子、高校中退の生徒であります。このような生徒の状況の中で、本校の混合教育が入学式直後の二泊三日の一年生研修から始まっていきます。当然、健康な生徒にとっては自閉児と相対するのがはじめてですので、第一印象「驚き」からのスタートとなります。また教員も二泊三日生徒と寝食を共にしますので、この三日間である程度生徒一人ひとりの個性を把握することができます。この段階で、健常児と自閉症の生徒とのコンビ、ペアを組みます。このシステムを本校ではバディと呼び、そして、健康な生徒は戸惑いながらも自閉児と行動を共にし、次第にうち解け、彼らを友とし、彼らの交流に心を和ませ、そして、思いやりの心を育んでいきます。自閉児は彼らの手助けを得て、社会自立に向け着実に歩み続けていきます。
 このバディは、互いを知ることだけではなく、互いの居場所が見つけられ、特に自閉児にとっては、同年齢の健常児との生活は自立のための社会性の強化に結びついています。社会に出る直前のこの大切な時期には、保護だけではなく仲間として、友としての一言が大きな成長の要因となっています。一方、不登校であったり、いじめられっ子であった健康な生徒の多くは、とかく自分が一番弱く、ダメな人間であるという意識を強く抱いている傾向があります。このような健康な生徒にとって、障害がありながら純粋で素直で懸命に生きている自閉児の存在は、自分を奮起させるカンフル剤のようになっているようです。やがて彼らは自信を取り戻し、卒業後の進路において教育、福祉関係を選ぶ健康な生徒も多くいます。これも、混合教育、バディの大きな成果であると思っています。
また、このバディは学校内だけにとどまらず、休日を使っての校外交流(ハイキング、ボーリング、カラオケ、映画等)へと発展しています。この発展は、自閉児にとって確実に余暇活動の充実に繋がっています。さらには、卒業後も継続しているケースもあり、まさに自閉児の生涯にわたってのバディとなっているようです。
 元来バディは、学校内で自然発生的に誕生したものでした。しかし、現在はその成果を認めた我々教員が意図的に形成させている感があります。やはり、本来は学校の中や社会の中で自然発生的に多くのバディが出来ることが理想であります。また、そのように我々教員がさらに努力しなくてはいけないと痛感しています。

校長  情報ID 16164 番  掲載日時 11/27/2006 Mon, 10:35