校長の独り言【45】 



著書『ダメ人間はいない 学校で生徒はかわる』2002年より 
第五章 武蔵野東技能高等専修学校
○進路指導の在り方と実際
 本校の進路指導の方針は、毎年3月10日の卒業式には大学浪人は別とし、卒業後の進路先を全員が決定し卒業式を迎えることを目標に指導している。
 本校は混合教育を展開する学校なので、学校の性格上他校の進路指導よりその指導の内容が多岐に渡っている。健康な生徒の進路指導として、就職、進学(大学・短期大学・専門学校、各種学校、高等職業技術専門校等)、そして、自閉児の進路指導として、就職(企業就労・福祉就労)、進学(大学・短期大学・専門学校、各種学校、職業訓練校等)と個々の生徒のニーズに出来る限り対応した、また充分に準備した進路指導を入学時より実施している。1学年の定員75名の学校で、進路担当教員は、健康な生徒50名前後の進学と就職指導に関して1名、自閉児25名前後の主に就職に関して企業就労担当2名、福祉就労担当1名の体制に、当然クラス担任、副担任で行っている。この体制を聞くと驚かれる方が多いが、確かに健康な生徒の就職も全国的に求人数が少なく厳しい現状であるが、まだ自閉児の就職問題より時間と人手を擁さない現実があるからである。
 自閉児の進路指導がいかに厳しいかというと、まず、企業には障害者を雇用しなければいけない義務が、「障害者雇用促進法」に民間事業主は全従業員数の1.8%は障害者を雇用しなければならないとある。しかし、雇用率は欧米諸国より遥かに少ない割合であるにもかかわらず、多くの企業は1人につき1カ月5万円年間60万円の違反金を払うことで障害のある人を雇用していない現状である。この日本の経済状況下で、健康な人が就職すること自体困難な時に、障害のある人にはもっと厳しい現実がある。故に、2名の企業就労担当者が1年間の時間を費やし、企業開拓(公共職業安定所が障害者求人の窓口であるが、身体障害の人の求人はあるが知的障害の人の求人はほとんどないのが現状である)し、生徒の個性に合わせ就職先の斡旋し、かつ卒業後の職場定着のフォローまで行っているのである。このような理由で2名でも厳しい状況があるのも事実である。
 また、福祉就労も企業就労同様で、この経済状況下で行政も税収入減により、福祉関係予算のみに比重がかけられないということで、新たな福祉作業所の新設計画が全くない現状がある。ということは既存の福祉作業所の定員が充足した段階で、その後の卒業生は在宅ということに成りかねないので、担当者は懸命に該当の福祉作業所との交流、情報交換に努めている。平成14年度より福祉が措置から契約に変わるので、この制度変更の成り行きに期待しながら見守っている状況である。
 また、平成12年度(2001年3月卒業)までに本校を卒業した自閉児は357名、そのうち企業等への一般就労は188名(53%)、作業所等への福祉就労は120名(34%)、専門学校等の上級学校への進学者は39名(11%)。教育困難といわれている自閉児であるが、一人ひとりの成長の結果と多くの理解者のお陰で、このような結果となっている。
 次に、健康な生徒の就職に関してだが、バブル経済崩壊後、日々マスコミを通して「リストラ」、「失業率」、「就職難」、「フリーター」等々の言葉を常に耳にすることが多い。本校は、職業教育を実施する高等専修学校であり、この問題から遠ざかることなく、真正面から立ち向かっていかなければならないと考えている。その中で、高校等卒業後、正社員として就職しないで、アルバイトやパートの仕事を繰り返す若者達「フリーター」問題は、特に身近な事として、進路指導の中で指導をしている。「フリーター」の意味は先に述べた通りで、正社員として就職しない若者達を指す訳であるが、日本労働研究機構の調べでは、1997年時点で全国で推定151万人で、82年の3倍と急増現象にある。なぜ、現在フリーターが急増したのか、最大の要因はこの就職難である。平成13年度の高卒の求人倍率は0.61倍(就職選考解禁直後の数値)と過去最低であった。また、9月下旬の就職内定率も37%と、こちらも過去最低であった。つまり、この現状下では希望する職業に正社員として就職できないので、簡単に職に就けるということで「フリーター」となってしまう訳である。そして、フリーターは次の3つに分類でき、細分化すると7つの類型になると言われている。
(1)モラトリアム型 ¨①離学モラトリアム型 ②離職モラトリアム型
(2)夢追及型    ¨③芸能志向型 ④職人・フリーランス志向
(3)やむを得ず型  ¨⑤正規雇用志向型 ⑥期間限定型  ⑦プライベートトラブル
 また、「フリーター」を語るメリットとしては、「自由」、「時間の融通がきく」、「休みが取りやすい」、「様々な経験ができる」等で。逆にデメリットとしては、「収入が少ない」、「社会的に認められていない」、「不安」、「不安定」とも発表されている。さらに、「2000年版労働白書」には、初めてこのフリーター問題を取り上げ、「技能低迷、社会の損失」であり、また、一つの職場での就業時間の短さがキャリア形成の妨げとなり、うまく正社員へ移行できない現状があることも報告している。
 この問題解決のキーワードは、《職業観の育成》であると考えられる。《職業観の育成》は、当然学校の進路指導として行っているが、やはり、家庭も《職業観の育成》の場であるはずだし、そうなっていただかないと、道に迷うのは生徒自身となってしまう。
 このような理由で、本校は1年次から展開している進路指導の中で、卒業後の進路として「フリーター」は認めていない。幸い、卒業後すぐにフリーターとして卒業していく生徒はいない。しかし、残念なことに、本校を卒業後、上級学校に進み、上級学校卒業後にフリーターとなっている卒業生がいるということは事実である。この事実からも、いかに家庭での《職業観の育成》が重要であるかを理解していただけるはずである。

校長  情報ID 15252 番  掲載日時 10/12/2006 Thu, 14:48