校長の独り言【42】 



著書『ダメ人間はいない 学校で生徒はかわる』2002年より 
第五章 武蔵野東技能高等専修学校
○混合教育(健常児、自閉児、不登校生)の実際
 私は混合教育の基本は、互いに理解し合った仲間であることと思っている。
 本校在籍生徒の内訳は各学年ほぼ同様で、座学より実学を好む生徒が1/3、自閉児が1/3、中学校時代不登校であった生徒が1/3の構成になっている。特に、自閉児と不登校生徒の融合が混合教育の成果として表れている。
 本来、本校は自閉児が実社会に出るための最終教育現場として設立された。そして、法人内の幼稚園、小学校、中学校と同様に混合教育の環境を作るべく、広く外部中学校より健康な生徒を募集し学校経営が始まった。よって開校当初より不登校生徒がいた訳ではなく、当時は15才人口の多い時で、どちらかというと怠学的生徒が多かったのが事実である。そして数年が経過した時に、たまたま1人の不登校生徒の入学が、自閉児と不登校生徒の新たな混合教育の始まりと言っても過言ではない。その生徒は、中学校3年間ほとんど登校せずに自宅にこもるタイプの生徒であったが、実に心やさしく、思いやりがあり、すぐに自閉児との関係を作り上げることができた。そして、自閉児との学校生活の中で、自分自身に自信が持て学校もほとんど休むこともなく、情報系の専門学校へ進み、その後結婚し現在では子どもも生まれ幸せな家庭を築いている。その生徒の大きな転機となったのは、やはり自閉児との出会いであり、自分の本来持つ心のやさしさからすぐに自閉児が理解できたこと、同時に自閉児がその生徒の心のやさしさをその本能ですぐに見抜いたことが最大の要因であったと理解している。このような事例により、私たち教員も一つの確信を得て本校の混合教育が新たな展開に至ったのである。
 しかし、本校へ入学したと同時に、本校の混合教育の環境中に身を置くだけで、すぐに色々な個性の生徒にとって人間教育の効果がでる訳ではない。学校の中で生活している生徒達は生きている。生きているから心は絶えず動いている。だから、入学当初は「言った」、「やった」というトラブルが毎年必ず起こる。このトラブルを通し、健常児も自閉児も共に学び合うから、3年次のハワイ修学旅行の時には実の兄弟以上の関係が出来ているのである。
 自閉児にとってこの環境は正にミニ実社会である。不登校生徒は良き友であり、良き理解者であり、良きライバルでもある。いつも同年齢の仲間と共に過ごすことは、自閉児にとって確実に社会性や言語面における伸びにつながる。さらに在学中培ったこの関係が卒業後も継続し、実際の社会生活へつながっていくのである。
 これは同じ混合教育であっても、法人内の幼稚園、小学校、中学校と少し様子が異なっている。年令の小さい学校では、良き友であり、良き理解者ではあるが、良きライバルまでの関係にはなかなか至らない。変わりにミニ先生の部分が表れる。それは、幼稚園の時から自閉児との交流がある子どもと、高等専修学校ではじめて自閉児と出会った生徒の違いであると解釈している。社会に直結する学校としては、ミニ先生の部分は自閉児の成長の妨げになり、本来自閉児のもつ依頼心の増長になる可能性があるので現状の環境こそがベストと考えている。

校長  情報ID 15068 番  掲載日時 10/04/2006 Wed, 12:16