校長の独り言【41】 



著書『ダメ人間はいない 学校で生徒はかわる』2002年より 
第五章 武蔵野東技能高等専修学校
○目指し、大切にしているもの
 本学園の最大の特色は、健常児と数多くの自閉児が共に学ぶ『混合教育』と、自閉児の自立を促進する『生活療法』であり、また、自閉児と健常児にみられるその教育成果の大きさにある。
 学園の特色から本校が目指し、大切にしているものは二つある。まず本校は専修学校の高等課程の学校であることから、専修学校の目標である職業人の育成として、校訓 『「理想」 世のために役立ち 人々に必要とされる 社会人となる』を掲げ、職業人としての技能と資格を取得すべくカリキュラムを展開している。当然なことではあるが技能、資格だけを身につけても社会人として完全ではない。人間としての心の成長がともなってこそ初めて完全となるはずである。幸い当学園の混合教育の中に人間教育にとって最高のステージが用意されており、この教育環境の中で職業人として、また多くの人々に愛される人間に成長してほしいと願っている。
 さらに、本校は生徒にとって居心地のよい、3年間で最大限成長できる居場所づくりを常に心がけている。
 数年前「EQ」という言葉が流行った。EQとは、Emotional Quotientの略で、知能指数(IQ)に対して情動指数と呼ばれ、平たく言えば「こころの知能指数」を意味することばである。アメリカのEQに詳しい心理学者で筑波大学の名誉教授の内山喜久雄先生は次のように説明している。「もともとエール大学の心理学教授ピーター・サロヴェイが創出した人間の能力を分析する方法なのですが、これを科学ジャーナリストのダニエル・ゴールマンが自らの著書『EQ・こころの知能指数』で紹介したところ、たちまちベストセラーとなり、EQという概念が瞬く間に全米に広まったのです。『IQが、あくまでも知能を判断する基準であるのに比べて、EQは性格や情動などを含めた総合的な知性のことで、IQが同じでも人生に成功する人とつまずく人が出てくるのは、EQに差があるのだ』とゴールマンは断言しています。」内山教授はさらに、「いかにIQが高くても人間味に欠け、人付き合いが下手な人間は、周囲の反感を買い、結果として自分の能力を生かすことができない。言い換えればIQが通用するのは受験とせいぜい入社試験まで。そこから先、実社会で成功するかどうかはEQ次第というわけです。」と、具体的に説明している。さらに、「EQは6つ(共感力・自己認知力・衝動抑制力・根気・柔軟性・楽観性)の要素がある。」とも言っている。
 このように、EQについて調べてみると、現在の教育諸問題が、6つの要素獲得までを目標にカリキュラムを作成し、実施することによって解決するような気がしてならない。また、EQを念頭に置き、本校の人間教育の実践と照らし合わせてみると、実に多くの類似点を確認することができた。
 ある意味で本校の教育テーマは、「職業教育」と「EQ」かもしれない。

校長  情報ID 15031 番  掲載日時 10/03/2006 Tue, 10:26