校長の独り言【33】 



著書『ダメ人間はいない 学校で生徒はかわる』2002年より
第三章 新米校長のとらえている日本の教育の現状
○教育再考
 当然であるが、教育は学校のみで行うものではない。「学校」と「家庭」と「地域社会」の三者一体の関係の中で行われ、互いに教育力の増進に努め、分担し支援し合わなければならない。
 まず、「学校」であるが、本校は私立学校である。学校法人武蔵野東学園の建学の精神の上に、【教育理念】《子の幸せを願う親の心を教育の原点とし、常に子どもから学びつつ、一人ひとりの子どもの可能性の極限をめざす愛の教育をとおして、世のため人のために尽くす豊かでたくましい人間を育てたい。》に則り日々の教育に当たっている。その理念は当然不変であるが、しかし、時代の変化と共に、教育環境そのものにも変化が生じている。まさに、教育改革がそのものである。つまり、私立学校は教育理念を継承しつつ、いかに時代の変化を先取りし、敏感に対応し、教育現場に生かすかが最も重要である。 次に、「家庭教育」であるが、「家庭」を辞典で調べてみると、『夫婦、親子などの関係にある者が生活をともにする、小さな集団。』とある。
 また、中央教育審議会の答申では、生涯教育の項の中で「家庭教育」を次のように説明している。
 『我国では、一般的に家庭相互の内面的な絆が強く、このことは、社会の変化など外部の状況への対応を含めて、家庭に安定性を保ちやすい特質を与えていると言われている。しかし、反面家庭が社会性に乏しく、閉鎖的になりがちであるという指摘も少なくない。このため子供の社会性・公共性の涵養の面で、地域社会への奉仕や勤労体験など親の配慮すべき事柄は多い。家庭教育は、親の子供に対する私的な教育であり、親の自由に委ねられているものであるが、同時に、家庭それ自体は社会の基礎単位であり、また、社会的存在として子供の社会性を伸ばしていくべき役割を担っている。その意味で、親は家庭教育の持つ社会的責任について認識をより深めることが望ましい。』
 つまり、家庭は、人間形成や精神的充足の上に持つ影響はとても大きく、家族相互の温かい心の触れ合いや、信頼と尊敬あるいは人格の陶冶などの教育機能の充実が必要であるということである。
 では、実際に各々の家庭において何をどうすれば良いのかということになるが、まず、家庭での食事は一日に一回は、家族全員でとり、話しをする機会を増やすことである。なぜ食事なのかというと、改まって設定する会合ではなく、どこの家庭でもごく普通に行われているミーティングの場であるからである。話の内容は、学校のこと、友人のこと、親戚のこと、家族のこと、社会のこと、テレビのこと、ニュースのこと何でも良いと思う。大切なのは展開する話の中で、子ども自身の考え方、物事のとらえ方、感じ方などを知り、親としてただ同調、容認するのではなく、示唆してあげることが重要である。これを繰り返していくことにより、家族相互の温かい心の触れ合いが生まれ、信頼と尊敬の関係が成立していくはずである。保護者の皆さんには、子どもとの対話をできるだけ多くもって欲しい。しかし、数年前に本学園全体で各家庭での食事形態に関しての調査を実施したことがある。この調査の目的は、家庭での会話がなされ易い食事を誰ととるかを調べたものである。結果は、年令が上がるに連れ一人での食事が増え、家族と共にとる割合が激減していた。本校のように実社会に直結する段階には、進学や就職という人生にとって大きな問題があり、かつ大切な子どもの情報を学校と家庭が同じ量だけ常に共有することを働きかけている。
 また、教育は学校と家庭と地域社会の三者一体の関係の中で行われるものであり、この関係の中でも、とりわけ学校と家庭・保護者の連携は最も重要であるので、より強い連携を築くためには、本校では、まず保護者に事あるごとに学校に足を運んでいただき、実際の学校生活の様子を見ていただくなどして、生徒について私ども教員と同じ情報量を持っていただくよう働きかけている。その上で生徒の成長に役立つ話をすることが重要と考えている。保護者の方々も忙しいとは思うが、なんとか都合を付けていただき、学校行事などにも必ずご出席を頂きたいと願っている。
 最後に、「地域社会教育」であるが、私立学校には学区がないので地域を限定するのが難しい。しかし、通学している生徒の自宅住所を1本の線で結んだ内側がある意味で私立学校の学区と考えられる。まず、私立学校がやらなければならないことは、地域の方々にいかに行っている教育を理解していただくかである。本校が開校以来できることからはじめて現在行っていることは、通学路の清掃、行事への招待、教員と地域の皆さんとの交流、生徒のボランティア、インターンシップの実施程度であり、この点についてはより多くの理解者を増やすために、更に努力しなければいけないと痛感している。



校長  情報ID 14782 番  掲載日時 09/20/2006 Wed, 09:21