子どもの成長に立ち会う

Heart to Heart(第5号)平成19720日発行

 1987年に北原キヨが学園の職員を主力に建ち上げたボストン東スクールが、今年20周年を迎え、6月に行われた記念行事に参加してきました。そのメインは21日の自閉症国際会議で、イギリスや日本の自閉症協会をはじめとする各国の教育専門家によるパネルディスカッションや、著名な方々の研究発表が多彩に盛り込まれていました。

 またこの20周年は、久々にボストン東スクールの子どもたちの様子に接する機会を与えてくれました。まずは会議の合間に行われたボストン東スクールのジャズバンドの演奏です。アメリカのお国柄で聴衆も感動をそのままに表現します。日本にはない熱狂的な声援に沸き、最後はスタンディングオベイションでした。また国際会議の翌日は、朝からロードレースが催されました。イベントを盛り上げ生徒の頑張りを鼓舞して張り上げる担当スタッフの声とともに、子どもたちは一斉にスタートします。高学年の部には、私にも見覚えのある成人になった卒業生の臨時参加者も数名いました。競争意識を持ってじりじりと追い上げていく子、自分のペースを守って黙々と走る子、すっかり息が上がりながらもスタッフに付き添われて必死に足を運んでいる子、とさまざまです。コース沿いの観客は口笛を吹くなど盛んに声援を送ります。普段わが子のマラソンする姿など目にすることのない寮生の保護者の中には目を潤ませている人もいます。我慢の限界で途中座り込んでしまった子も含めて最後は全員が完走し、大きな拍手と喝采に包まれました。

 スタッフがよく励まして挑ませ、子どもが一生懸命に頑張って何かをやり遂げ、何がしかの達成感を味わう。よくやったぞと子どもの努力を賞賛して喜びを共有する。地球の裏側に位置する国の学校ではあっても、武蔵野東のこうした教育上のスタンス、子どもとの関わり方は今も変わっていません。

 支援ということばの奥行きには深いものがあります。表面上の本人の好き嫌いだけを尊重して見守るのは武蔵野東の教育ではありません。本人の力と場の状況を考え合わせ、その子の乗り越えられそうな負荷を与え、必要に応じて手助けをする。そうして一つのことを乗りこえられた子どもの顔は清々しく、人間本来の希望と喜びの表情そのものに輝きます。当教育センターにおいても、子どもたちが自分の限界を打ち破っていくときの、まさに自由を得たような喜びの笑顔によく出会います。我々大人を含めて、人間の価値を現在の自分からの脱皮、向上と規定するならば、私たちは彼らを見上げるべき存在と認識する必要があります。

 教育センターの夏休みも目前になりました。4月の頃を考えると、廊下から眺める後姿に頼もしさを感じます。夏は子どもたちが精神的にも一皮剥ける季節です。どうぞ元気にのりきっていただきたいと思います。

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