バランスを持った見つめ方を

Heart to Heart22 平成2534日発行

発達障害をもつ子どもたちについて、発達における特殊性を学び深めていくことは、言うまでもなく大切なことです。ただし、障害部分に意識を集中しすぎて、本人なりの成長を日々続けている子どもの全体像を見つめることも忘れてはなりません。そして本人の生活の全体像を考える際には、そこに充実感が伴っているかという視点をもつことが大切です。たとえば日々の生活を一週間単位で見て、ある程度の充実感を得られているかどうか、心身の快、不快のバランスがとれているかどうかを考えてみるのです。

ただし、発達障害の子どもたちは得てして興味の範囲が狭いので、わかりやすく取り組めるように手ほどきをしながらさまざまな経験をさせ、興味関心の幅を広げていく姿勢が必要になります。子どもがさまざまな活動に取り組めないでいる状態、言わば食わず嫌いのような状態のままにしておくと、本人が年齢を増していくほどに新たな一歩を踏み出すときの抵抗感は大きくなります。このようにまだまだ活動の幅が狭く情緒の不安定なままでは、充実感を得ることはなかなか難しいでしょう。やはり、体を動かしたり友だちとふれ合ったりと、数多く体験をさせていきたいものです。

また、子どもに表れているいくつかの問題点や能力的な弱点は、それが独自に存在するものではなく、少なからず他の機能とも関わっていることも心に留めておくべきです。少し極端な例かもしれませんが、著しい偏食の子どもが、それまで食べなかったものを口にしたり食事量が増えてきたりしてきたときを境にして、興味が広がってきて認知力が高まってきたりすることも、単なる偶然と片付けることはできません。さまざまな要素が相互に関連して人間の発達を促すことは、疑う余地のないことだからです。

 とかく私たちは、短時間でスキルを身につけたり学習能力を高めたりすることに気持ちを奪われやすいところがありますが、課題によって変容に要する時間に違いがあるのは当然のことです。起伏のある道のりではあっても、本人なりに手応えを感じて自信につながるような活動であるならば、それは他に代えがたい価値のあるものです。『先生、前の僕だったらきっと逃げてたよね!今は上手になった?』と話しかけてきた子どもがいて可愛く思ったという話を、先日体育教室の担当スタッフが語っていました。この子のことばには、本人にとって一つの峠を乗り越えた充実感があふれ出ています。

目に見える成果というのは、くり返し活動したことが本人の体の中でうまくつながって、機が熟したときに起こる果実です。決して成果が目に見えたときだけが重要なのではありません。変化なく過ぎているように見える子どもの身体の中で、成長をもたらすための変容がじわりじわりとなされているのです。本人が懸命に活動に臨んでいる姿を、価値あるものとして温かく見守りたいものです。

 

 

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